NIPPON Kichi - 日本吉

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2008/8/22


【笑(若)】 Shou, Warau (Jyaku, Wakai, Moshikuha) Laugh (Young; Maybe)

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 笑うことは一体「竹」という植物とどういう関係にあるのでしょうかと疑問に思う人もいるかもしれません。生き物の中でも、笑うことは人間の特徴なので、この字もなにか人間の姿を写すものです。
 今の部首「竹」になっている部分は身体の一部の両手です。巫女が笑いながらエクスタシーのような意識状態となって神のお告げを求め、手を振りかざして踊っている形です。つまり古代人は、笑うことは、人間を神に近づけると考えていました。
 「笑」の字には甲骨文・金文がなく、初めて篆文にあらわれます。
 甲骨文が残っている「若」の艸冠(くさかんむり)も手を表し、踊っている巫女が両手をあげている形です。「若」の「わかい」という意味は通常の巫女の年齢が若いことから来た意味でしょう。
 また、「もしくは」という意味があるのは、神のお告げが伝わるかないかは確かではないことからです。のちに金文から「口」という祝詞の器の形が加わり、そこから現在の字形「若」に発展していきました。
 
■右 笑・篆文(てんぶん)
■左 若・甲骨文(こうこつぶん)
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2008/8/11


【石】 Seki / Ishi Stone

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 白川文字学が発表されるまで、「石」の「口」の部分は崖の下に転がる石の塊であるというのが定説でした。しかし、甲骨文にみられるように「口」は祝詞を入れるための聖なる器です。「暦」の字説で紹介したように「厂」は険しい崖の形を表し、崖は様々な祭祀と儀式の場として強い霊力の有するところでした。石と霊力の関係を示す文字として、「宕」と「祏」があります。霊廟を表す「宕」は「宀」のもとに「石」があり、位牌の意味の「祏」には「示」偏に「石」があります。こうして祭事関係の字に「石」があることから、石には祭壇の機能もあったかもしれません。
 霊感の強い古代人だけでなく、現在でも自然界の根本的な要素である石には霊が宿りやすいとの理由で、勝手に自然石を家に持っていかないようと注意を諭す人もいます。日本でも御神体として石を祭ることがよく見られます。
 
■ 石・甲骨文(こうこつぶん)
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2008/8/1


【暦】 Reki, Koyomi Calendar

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 この字が「こよみ」という意味を持つようになった由来は「歴」と共通しています。両方ともに軍隊的な背景があり、これは崖の下に行われている表彰式を表します。戦争のときには決戦日が終戦日になることがあります。戦勝時には軍人一人一人の手柄を表彰します。その日が終戦記念日になりました。世の中のどこでも、記念日についての考え方は漢字成立の3000年以前とあまり変わらないようです。
 崖の下はよく祭場になりました。大変強い霊的な場所と考えられたのです。そして崖の下に両禾(りょうか)で門を作ります。「暦」の上の「厤」は、こうしてつくられた門を表します。
 ヨーロッパなどでは、ローマや旧ローマ帝国の町、パリの凱旋門(ラルク・ドゥ・トリオンフ)のように、石からできている建築の形になりますが、基本的に戦争勝利記念の軍門を立てることは他の世界にもありました。
 このように、日付に関係した字なので、「暦」の下の「曰」の部分は日々の日をあらわすとおもわれがちです。しかし、崖の下に両禾で門を作るように、これは神との交信をあらわしているので、これは祝詞の器を表す「曰(えつ)」の意味となります。
 
■暦・金文(きんぶん)
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2008/3/17


【誠】 Sei Sincerity

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 この字は甲骨文や金文にはみられず、篆文から現れます。右と左の部分に分けられるのは確かですが、ただそのためにA+Bという数学的な感覚の解釈に乗り出すのは勇み足です。意味について白川静先生は「誓約を成就する意である」とまとめています。
 「言(ことば)」が「成る(成就・実現する)」という表面的解釈よりもっと、古代中国の社会の在り方に目を向ける必要があります。白川文字学によると「信」の説にあったように「言」の下の部分の「口」は、祝詞を入れる器の意味です。常用字体からはわかりにくいのですが、その上の四本の横線は、刺青を入れるための道具で、取っ手の付いている針の形です。この「言」の部分だけでも神への誓いのことばという意味があります。
 また「成」は戈・矛(ほこ)を作り上げた後、飾りをつけて完成の儀式を行う形です。つまり、この字の左右の部分は宗教的な由来にもとづくものと考えられます。
 
■ 誠・篆文(てんぶん)
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2008/1/29


【史】 Shi History

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 歴史の「史」という学問関係の漢字ですが、史の意味の背景は案外に知られていません。中国では、歴史執筆は非常に早い文明の段階からありました。このことはこの字と深くかかわっています。初字体が甲骨字に遡るのもそのためです。
 信・吉・哲などと同じように、ここにも上の口の部分は祝詞の器です。この祝詞の器に木をつけて手で持つ姿を象っています。これは王の祖先の霊を祭る儀式の姿です。「史」には、祭ると同じく、史る(まつる)という読みもあります。「史」は祭り自体の意味から、祭りを行う仕事をする人という意味に転じました。昔の中国の社会は今のような民主主義的な祭政分離の原理に基づいている世界ではありません。祝詞を運んだり持ったりという役割は、聖職者に似合う宗教的な仕事であると同時に、宮内省の公務員的なお勤めのようでもありました。
 使・事は同じ系統の字です。王の祖先礼拝は社会全体の祖先礼拝の手本となり、その記録(史(ふみ))は歴史そのものといえましょう。

■ 史・金文(きんぶん)
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2007/12/20


【信】 Shin Trust, Trustworthiness, Belief

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 人偏と言をあわせた字体で、この組みあわせでは古文に初めて登場します。
 「言」はすでに甲骨文に見られます。「吉・哲・仁」の字説にもあるように、下の部分は口、祝詞を入れる器の意味です。その上の四つの横線の意味は、常用字体からはわかりにくいのですが、「清」の字説にある文身と刺青文化と関わりがあり、刺青を入れるための取手が付いている針の道具の形を表しています。したがって「言」はただの軽い言葉でなく、祝詞の器の上に針を置き、神への約束・誓願を守れない場合には刺青の罰を受けることを意味します。そこにはもともと神に逆らうという背景があり、人偏が加わると古代社会にあった体罰の一つであった刺青とも位置づけられます。
 一般的な孔子像とは対照的に、白川静先生の説によると孔子は巫女の庶子でありました。神々の世界をあまり話題にしなかった孔子ですが、論語・顔淵第十二などにも基づいて、「信」は社会政治概念になっていきました。日本では古義学の元祖伊藤仁斎(1627-1705)が信の尊さを改めて指摘しました。また、政治に食・兵・信のうちどれが一番大事かと聞かれた孔子は「食が兵より大事だが、民からの信が絶対に欠かせない」という信条を唱えました。確かに、民や個人が信念のために断食することは宗教と政治の戦いによく見られます。
 
■ 信・篆文(てんぶん)
■ 言・甲骨文(こうこつぶん)
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2007/11/19


【哲】 Tetsu Wise, Sagacious

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 この字の上の部分は「折」ですが、旧字形ではかなり違います。
 「斤」は斧の形ですが、「扌」は、手ではないのです。手で斧を使うのは常識ですので、いちいち記す必要はありません。ここでは斧で作られる対象が描かれています。宮島の厳島神社などには、「神梯」とよばれる神が天に陟(のぼ)り降りするときに用いる梯(はしご)があります。中国の聖地にもよくある木製の梯です。「哲」の字の上部の「扌」は神梯であり、斧で神梯を作ることを表します。そして、下部の「口」は祝詞を入れる器であるので、この字は神を迎えるときの心や精神状態を象(かたど)っています。それで、古代から「明らか」、「賢明」という意味がありました。
 王様のことをこの形容詞で表すこともよくありました。同じ意味で祝詞の器「口」の代わりに「心」を置く字体もあり、古い辞書には「敬なり」という意味を説明しています。
 広く東アジアに影響を及ぼし、徳川幕府の政治哲学思想にもなった朱子学は「敬」を指導概念にするもので、この哲の旧字体「悊」の字義に該当します。
 また、これよりも前から吉二つをあわせる異体字の「喆(てつ)」があります。後漢の時代に記された字書『説文解字』に基づいて白川静先生は吉三つからなる「嚞(てつ)」も紹介しています。
 
■ 哲/悊・金文(きんぶん)左
■ 哲・古文(こぶん)右
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【吉】 Kitsu,Kichi Luck, Good Luck

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 小さな鉞(まさかり)つまり「士」を祝詞の器「口」の上に置く形です。今から50年前に、「口」が人体の口ではなく、祝詞の器をあらわすことが白川文字学ではじめて証明されました。
 大きな鉞の頭部を象る「王」という字体からもわかるように、武器である鉞には大変な霊力が宿っていると一般に考えられていました。そして祝詞の器「口」の上に物を置くことは二重の蓋をしていることを表す悟(吾)と同じです。ここでは武士階級の小さな鉞ですが、さらに祈りの効果を上げるために広く人々の行った行動と思われます。そのため、これは軍事のことをも含めて、一般に祝禱(しゅくとう)に用いられます。
 一神教でも神様にお願い事をすることはありますが、東洋の宗教のように願い事の現実化の可能性を問う吉凶判断はありません。神社で御神籤(おみくじ)をひくことがよくありますが、一神教ではそれはまったく考えられません。吉凶判断で人々に人生を反省させるという宗教観は、東洋には本来自分の祈りごとをはっきりとさせるという基本伝統があることを示しているのではないでしょうか。
 
■ 吉・金文(きんぶん)左
■ 吉・甲骨文(こうこつぶん)右
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